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波と沿岸防災 波の種類・特性と沿岸への影響・入門編
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波と沿岸防災 特集 波の種類・特性と沿岸への影響・入門編 下迫 健一郎 一般財団法人 沿岸技術研究センター 審議役 と呼び、周期は概ね数秒から15秒程度です。十分に発達した 1.
はじめに 風波では、波高が10m以上になることもあります。 海には様々な波が存在します。波とは、分かりやすくいうと 一方、風波が伝わって行って、風が吹いていない場所に到達 海面の上下運動のことです。図1に示すように、上がった水面 したものをうねりと呼びます。うねりは比較的周期が長く、最 がいったん下がって、また上がるまでの時間を周期、一番高い 水位と一番低い水位の差を波高といいます。また、1つの波の 長で20秒程度になります。一般に風波とうねりをあわせて波 浪と呼んでいます。夏から秋にかけて、太平洋側の海岸には台 長さを波長といいます。波の周期はその発生原因によって異な 風が近づく前に「土用波」と呼ばれるうねりが来ることがあり、 り、短いものから長いものまで様々で、沿岸に与える影響もそ 晴天で風のない日でも大きな波が発生します。 れぞれ違いがあります。本稿では、こうした様々な波の基本的 周期が30秒程度以上の波は長周期波と呼ばれます。風波や な特徴についてご紹介します。 うねりの波高は不規則に変化しますが、大きな波が1波だけで ある地点における水面の時間変化 はなく、数波連なって来る傾向があることが知られており、こ の性質を波群性といいます。30~300秒程度の長周期波は、風 波やうねりの波群の変化などに起因して生じます。こうした長 周期波は波高があまり大きくないため、見た目には分かりにく ある時刻における水面の分布 いのですが、船をつないでいるロープが切れるなどの被害が発 生することがあります。 一方、周期が10分以上の長周期波は、湾や港の固有周期に共 振して起こる副振動と呼ばれるものが多く、副振動は沖合での 図1 波高,周期および波長の定義 気圧の急変によって発生する、水深に比べて波長の長い波(海 洋長波)が増幅しながら伝わり、湾内や港内でさらに増幅され ることで発生します。こうした長周期波はその被害に度々見舞 2.
周期による波の分類とその特性 われる長崎湾では「あびき」とも呼ばれ、長崎湾で1979年に観 私たちが普通に海岸で見かける波は、海の上を吹く風によっ 測された過去最大のあびきは周期が約35分で、最大の全振幅 て発生します。そのうち、風によって直接起こされる波を風 かざなみ 波 (波高)が278cmを記録しました。 表面張力波 波 浪 長周期波 津波 気象潮 エネルギーの 相対的大きさ 潮汐 0.01sec 0.1sec 1sec 10sec 1min 10min 1hr 10hr 100hr 図2 周期による海面変動の分類の例 CDIT 2023 ▷ No.59 14 周期 波高 時間 波長 波高 距離
波と沿岸防災 特集 海底地震や火山の爆発など急激な海底変動によって発生するの あまり目立たない波ですが、水深が浅くなるにしたがって大きくな が津波で、周期は数分から数十分程度です。津波は沖のほうでは れらの背後に回り込みます。これを回折といい、周期の長い波 島や岬、防波堤など波の進行を妨げるものがあると、波はそ り、岸に這い上がって多くの人命を奪うこともある恐ろしい波です。 ほど回折の影響は大きくなります。 高潮は、台風のような強風を伴う低気圧による海面の異常な 上昇で、気圧低下による吸上げと強風による吹寄せの2つの要 波の進行を妨げるものにぶつかると、波は向きを変えて別の 因によって発生します。その周期は、日本沿岸では数時間から 方向に進みます。これを反射といいます。反射した波の波高と 十数時間程度です。大気圧が1hPa低下すると海面は約1cm上 元の波の波高の比を反射率といい、通常の波浪の場合、直立の 昇します。また、吹寄せによる海水面の上昇は、風速が速いほど、 湾の長さが長く水深が浅いほど大きくなります。 壁がむき出しの防波堤では0.7~1.0程度ですが、緩やかな砂浜 海岸では0.05~0.1程度と非常に小さくなります。 そのほか、海面の水位(潮位)は約半日の周期で上下に変化し ます。これを潮汐と呼び、太陽と月の運動によって起こります。 4. 沿岸への影響 天体の運動は規則的なので、潮汐による水位変動はほかの海面 4.1 海岸地形の変化 運動とは違って正確に予報することができます。 台風などによる高波が来ると、砂浜海岸では海岸線が大きく 3.
波の伝播と変形 後退することがあります。通常はしばらくすると海岸線は元に 戻りますが、河川からの土砂供給が少ないと、海岸線は元に戻 3.1 波の速さ らず徐々に後退していきます。このような現象を海岸侵食とい 波の進む速さは水深と周期によって決まり、水深が大きいほ います。対策としては、コンクリートブロックによる離岸堤な ど、周期が長いほど早く進みます。波の波形が伝わる速さを波 どを設置して、砂の堆積を促進する方法などがあります。 速というのに対して、波のエネルギーが伝わる速さを群速度と 4.2 港内における長周期波の影響 いいます。通常の波浪の場合、群速度は波速よりも遅いため、 防波堤は外から来る波を遮り、港を静穏に保つ重要な施設です。 波の先頭では振幅が徐々に小さくなっていきます。これに対し て、津波の場合は群速度と波速が同じになるので、伝播する間 しかし、長周期波の場合は通常の波浪に比べて回折の影響が大き いため、船舶が出入りするための港の入り口から港内に侵入した に波の先頭で振幅が小さくなることはありません。 り、防波堤下部の捨石マウンドから透過したりして、港内の静穏 3.2 波の変形 度に影響を与えます。対策としては、防波堤を延ばして港内への 波は伝播の途中で屈折、浅水変形、砕波、回折、反射など、様々 長周期波の侵入を少なくする方法や、港内の水際線の消波性能を な変形をします。 向上させて反射による波高の増大を防ぐ方法などがあります。 4.3 津波や高潮による被害 なります。そのため、波の進む方向は等深線に対して直角に近 3.1で述べたとおり、水深が浅くなると波の伝播速度が遅く よって小さくなるため、それ自体では大きな被害が生じること 3.2で述べたとおり、通常の波浪は沿岸に到達すると砕波に づきます。こうした変形を屈折といい、沖では様々な方向に進 はありません。しかし、高潮と高波が重なった場合や、津波が んでいる波が、海岸線に近づくと波の峰が海岸線にほぼ平行に 来襲した場合には、沿岸域に大きな浸水被害をもたらすことが なるのはそのためです。 あります。津波や高潮に対する対策としては、海岸堤防などの ・浅水変形 構造物によるハード対策で浸水を防ぐ方法がありますが、構造 波のエネルギーが伝わる断面積は水深に比例するので、水深 物による対策には限界があるため、被害を最小化するためには が浅くなるとエネルギーの密度が高くなり、波高が大きくなり ます。こうした変化を浅水変形といいます。 早期避難などのソフト対策も重要です。 5.
最後に 波高が水深や波長に比べてある程度大きくなると、波は砕け 海の波の種類や基本的な特徴について紹介しました。温暖化 ます。これを砕波といいます。通常の波浪は海岸に近づくと砕 による海面の上昇や台風の強大化により、波による沿岸への影 波して波高が小さくなりますが、津波や高潮は砕けることなく 響の増大が懸念され、今後はこれらに対する適切な対応が不可 海岸に押し寄せて陸上まではい上がります。 欠になると思われます。 15 CDIT 2023 ▷ No.59